群れ
99年 作詞作曲 飛鳥涼
【テーマ】過去との決別
※歌詞は動画を参照(曲は9:25から)
この衝撃的に暗い曲は、驚くべきことにシングルカットされている。97年のASKAソロ『ID』からダーク路線が続いていたが、『群れ』はその極北。アルバム曲ならまだ分からなくもないが、これがシングルとは・・・ ファンの間に衝撃が走った。しかもチャゲアス20周年のメモリアルイヤーである。お祭り気分台無しもいいところ。ASKAの天邪鬼も相当なものだ。
詞の中身も凄まじい。ふだん当カテゴリではモチーフとテーマを分けて解説している。ASKAの詞は比喩表現の連続なので、そのほうがわかりやすいのだ。しかし『群れ』は違う。ストレートにテーマが歌われている。それは【過去との決別】である。
過去とは何を指すか。ヒット連発の黄金時代である。それを〈愛と勇気〉と表現している。愛=SAY YES、勇気=YAH YAH YAH。
そして愛と勇気はどこまで一緒だろうか
ASKAは常に変化してきたミュージシャンだ。何度も指摘している通り、前年の98年にはかなりハードなロック路線を展開している。
これが大多数の女性ファンから不評を買った。従来のファンは、いい子ちゃんのチャゲアスを求めているのだ。〈愛と勇気〉で盛り上がりたいだけ。
いつまでも俺をあの日の姿で 閉じこめようとする群れがいる
(あの日の姿)
変わりたいのに許されない。これが『群れ』テーマなんだと思われる。言うまでもなく、群れとは新しい活動を支持しないファンたちのこと。
この空にだって穴を開けちまう時代に 俺の足跡で言葉の海を作り 泳げないと言う
時代はとっくに変わっているのに、足跡=過去の作品に溺れているファンたち。
しけたマッチで俺を湿らすな
足を引っ張るな、邪魔しないでくれ。
ASKAはイメージと戦う宿命を負ってきた。フォーク演歌という独自のジャンルでデビューし、やがてコンピュータの打ち込みを導入。90年代前半には骨太のポップスでブレイクし、90年代後半からはかなりハードなロックを展開した。細かく見れば、アルバム一作ごとでもイメージは変わっている。ブレイク期に「フォーク演歌のイメージから脱却するのに苦労した」とよくASKAは語った。同じことをまた、90年代後半に繰り返したのだ。
(フォーク演歌)
背伸びは済んだ 天気はのんきだ
黄金時代はやはり、無理をしていたのだろうか。ASKAはテレビに出るときはすごい緊張していた。「なにをそんなにカッコつけてんの」とファンの私でも思うくらいに。
97年、初めてのソロツアーを敢行したときに「一人だと全然緊張しない」と不思議そうに語っている姿がビデオ『共謀者』に収められている。この頃に薬物を使い始めたと本人も書いているが、いずれにせよ97,98年と続いたソロ活動で相当な開放感を味わったのは間違いない。99年のチャゲアス再始動にあたっては、解き放たれたい欲望と、これまでのチャゲアスというイメージとの相克があったのだろう。
最近のテレビ報道でも痛感するが、ASKAを紹介するにあたっては必ずこの〈愛と勇気〉が流れる。これはたしかにきつい。私も大好きな曲だが、バッドニュースとともに流れてくると、どうしても嫌なイメージと渾然一体となってしまう。
視聴者もうんざりしているだろうから、たまには『太陽と埃の中で』や『LOVE SONG』に変えてくれないかな。
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