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ASKAの失恋?

 

ASKAの詞は失恋ものが多い。

 

それもモチーフはいつも決まっている。「ひどく傷つけ合い、女が去ってゆく」というものである。

この失恋モチーフが多いという事実には、ずっと気がつかなかった。言われてみてそういえばそうだ、と思ったのであるが、そのことを誰に教えられたかというと、ASKA本人だ。2010年に発表されたセルフカバーアルバム「君の知らない君の歌」と、それに伴うコンサートツアー「FACES」でASKAが語っている。

 

私は09年以降ASKAが完全なる廃人にしか見えないようになり、新譜にもライブにも食指が動かなくなったことを他でも書いたが、この「君の知らない君の歌」はなぜか心引かれて買ったし、ツアー「FACES」も新宿でチケットが叩き売りされているのに遭遇したので見に行った。いずれも心に響くものがあった。

ライブにおいてASKAが、ひどい失恋を経験したと明言したわけではないが、このアルバムは「部屋」がテーマだと語った。

デビューして間もない頃、中目黒の自室にはいろんな人が訪ねてきて、信じられないくらいいろんなことが起こった。云々。それがアルバムのテーマだというのだ。チャゲアスも含めて過去の自作曲を集めたこのアルバムを聴いてみると、これがまた失恋の歌が大半であり、内容は「傷つけ合った果てに女が去っていく」パターンで一貫している。そうでなければ部屋に染み着いた女との思い出話。

プライベートをまったく明かさない人が、例によって抽象的な語り口とは言え、ある意味ではかなりあけすけに実生活の過去の話をしたものだから、驚いた。話を聞きながら、武道館の一万人も固唾をのんでいた。急にいろんな歌が切実なものに思えてきて、人事ながら切なくなってきた。

 

同じような感情を、村上春樹にも感じたことがある。

初期村上作品には「直子」と「双子の姉妹」が執拗に登場し、誰か(主に直子)が死ぬ。長編を3つほども読めば「村上春樹は恋人を中絶させ、そののちに自殺で亡くしている」としか思えなくなる。それくらい切実さが作品に刻まれている(もしそれが文学上あるいはビジネス上の虚構だとしたら、超人的頭脳だ。逆になお尊敬に値する)。針を振り切ったアーティストはみな、作品に切実さが篭もっていると思う。

 

さて数ある失恋ソングの中でも、もっとも鮮烈なのが93年発表の「You are free」。

アルバム「RED HILL」に収録され、アルバム発売後に「なぜに君は帰らない」と同時にシングルカットされた。そんなタイミングだからヒットにはいたらず、あまり注目もされなかったし、曲調にもさしたるインパクトがあるわけでもない。佳作、という印象だ。

しかしよくよく歌詞を咀嚼してみると、こんなに切実な歌もないことを悟る。

もし人を深く傷つけたことがあり、そのことで自分の胸にもざっくりと傷を負っている人ならば、きっと琴線に触れることだろう。「百年かけても消せない」傷を与えてしまい、君が「僕から離れた」。あまりにも切ないこの「ひとつめの夜を越えれたら ふたつめの夜も」越えられるだろうか・・・ 鎮魂するかのような身振りで熱唱する姿もまた、印象的である。

 

 

ASKAは多くの詞の中で、傷つけあった女を手放し、そのことでお互いをより平穏な世界に移そうとするが、やっぱり後悔の念にとらわれ、胸を痛め続けているのである。もしそれが実体験で、創作の原動力になっているとしたら、皮肉といえるだろうか。果たして傷を負うことで「永遠」を獲得するアーティストは数多いるのであった。

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