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kicks(ASKAソロ)

収録曲

 

「kicks」=刺激を意味するタイトルの今作を、一言で言い表すのは何よりも容易だ。

 

問題作

 

ミスチルで言う『深海』、YMOで言う『BGM』みたいな、絶望的な暗さが漂っている。しかも深海やBGMは問題作として大いに話題をふりまき伝説の名盤と語り継がれているが、ASKAの『kicks』は時流を逸しスルーされているのがなお悲劇である。ASKA逮捕によりkicksが少しだけ有名になったような感もあるが、まだまだ評価は足りていないと思う。そう、これは傑作なのだ。当時の音楽誌には「ロックとクラブミュージックの融合」などと書かれたようだが、私にはその意味がよくわからない。いずれにせよそこらへんのJ-POPではないことは確かだ。

 

発売当時私は中3だった。今のように理屈っぽくもなかったし笑、当時はリアルタイムでチャゲアス情報を追えていたわけでもなく、何も知らずにkicksをレンタルで聴いた。そのときの素朴な感想

「あれ?人が変わっちゃったのね」

90年代前半の「いわゆるチャゲアス」を“雲ひとつない快晴”とするならば、kicksは“どんよりとした曇り空”と言えるだろう。くぐもったボーカルや暴力的な歌詞、打ち込み音が織り成す音楽はとにかく暗い。同じ人とは思えなかった。
CDのジャケット裏面は女性のスカートをまさぐる男の手?モザイク加工されていてよくわからないようになっているのだけど。
「ASKAがまやくやってる!」と中3の私は思ったが、まさか15年後にその直感が証明されるとは。本人によるとこの時期はやってないそうだが・・・ 文春に出たときには真っ先に中3当時の感情を思い出した。

 

 

当時の私にはほとんど刺さらなかったわけだが、馬齢を重ねるにつれ、この音の意味を理解するようになった。ロックを嗜むにはある程度耳を養う必要がある。kicksにもそういう要素はあると思う。そういう意味では大人向けのアルバムと言えるかもしれない。

未聴の方はまずこちらをご覧いただこう。

 

暗い。が、名曲だろう。この曲のバックスはイギリスのミュージシャンで、今までにない淡めの叙情性に溢れている。このシングルは国内では売れなかったが、中国でカバー曲が大ヒット。

 

アルバム全体的に言うと、メロディはポップでもアレンジに陰影があったり、歌詞が暴力的だったりと、とにかくASKAの他のアルバムとは異質。

http://www.chage-aska.net/discography/item/YCCR-00005
ここの自作解説をひとつひとつ読んでいくと、曲をアルバム全体のカラーに合うように変えていったという記述がちらほら見られる。チャゲアスはあまりアルバムのコンセプトを作らないように思うが、kicksは「全体の雰囲気」がかなり意識されているようだ。

 

ブックレットのクレジットに今作の秘密が隠されている。
PRODUCED AND WRITTEN BY ASKA
CO-PRODUCED AND ARRENGED BY AKIHIKO MATSUMOTO

 

曲単位での作詞作曲編曲のクレジットはなく、最後にまとめてこう記されているのだ。
つまりアルバムの総指揮と全曲の作詞作曲がASKA、助監督と全曲の編曲を松本晃彦が務めたということだろう。

 

アルバムを通してアレンジャーが1人だけというのは後にも先にもこのアルバムしかない。画期的なことだ。鬼才・松本晃彦についてはこちら

ASKAが提供した鈴木雅之の『no credits』という名曲がある。これも松本のアレンジなのだけど、私はこれを聴いて松本サウンドを理解した。

 

松本氏、ワルい感じを作るのがうますぎる

松本晃彦という人はほのぼのとした風貌だが、その実、音はかなりハードボイルドでとても乾いている。kicksの雰囲気はまさに松本サウンドであり、松本が果たした役割はとても大きいのだろう。松本&ASKAと言ってもいいのではないか。その路線は次作『NO DOUBT』でも継承され、よりワルい音作りをしている笑

 

レコーディングはロンドンと東京で行われ、半数の曲でイギリス人ミュージシャンを起用している。例えば象徴的なロックナンバー『NOW』と『tattoo』を比較してみる。NOWは東京、tattooはロンドンとなっている。ビデオkicksで観ると似たようなテンションの曲だけれども、CDで聴くとけっこう違う。NOWは江口伸夫のドラムが乱れ打ちでその他の音も相当ぶ厚いが、tattooはコンピュータで制御されているかのような正確無比、無機質なプレイ。tattooに物足りなさを感じるのは私だけだろうか。

逆に『花は咲いたか』はロンドン作だが、ボーカルがエモーショナルなぶん、バックスは無機質なのがかえって歌が引き立って良い。特に最後のアコギなんかは職人技といった感じがして興奮を誘う。ちなみに多くの曲で起用されたギターのロビー・マッキントッシュとはこの人らしい

職人的ネルシャツ。

 

ロビー某、松本晃彦、ASKA・・・ こんなオトナなミュージシャンたちが集って技術を注ぎ込んだ大傑作がkicksなのである。飛鳥涼がただのJ-POP屋さんではないことを鮮烈に証明する作品。

 

(2018/02/15)

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