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迷宮のReplicant

88年 作詞・作曲 飛鳥涼

 

歌詞

 

CHAGE&ASKAの隠れ名曲として名高い『迷宮のReplicant』。チャゲアスブーム前の88年、『ENERGY』という渋めのアルバムに収められた一曲であり、なかなかの“隠れ”っぷりながら、知っている人は全員が絶賛するほどの名曲と言えよう。
実はこの曲、映画『ブレードランナー』をモチーフにしている。

 

タイトルの「レプリカント」という言葉の意味がわかるだろうか。中学生当時の私、英語の辞書を引いてみた。しかしreplicantという単語は存在しない。近接するreplicaは「レプリカ、複製」という意味を表していることはわかった。が、やはりそれでは歌詞の意味はわからない。
いい曲だけど意味はわからんなぁで時を過ごし、20歳近くなっていたはずだが『ブレードランナー』(82年)の存在を知った。本の紹介文によれば「人間そっくりのアンドロイド“レプリカント”の反逆」などとある。瞬間、このことか!と膝を打ち鳴らし、積年の疑問が氷解した次第だ。
そう、この曲はあのSFの傑作『ブレードランナー』に影響されて作られたのである。どこかでASKAも証言していたと思うけど、出典は忘れた。

 

『ブレードランナー』は文明批評の性格が色濃い映画で、昔から知識人層に異常に高く評価される。あまり気軽に見られるものではなく、公開当初の評判は散々だったと言われる。若かりし私もかつて何度も挫折した経験があり、最後まで通して見れたのは最近である。

映像が美しく未来予言の性格もあるので、その手の物が好きな人(=ASKA)にはたまらないのだろう。人工知能が音声で動いたり、チェスを打つシーンなどは、まさに今、現実化しているのでビックリする。

 

この映画で主役となるレプリカントを今風に言うと

AI

 

しかも人間そっくりに作られている。そしてやっかいなことに、レプリカントは自分がレプリカントだとは知らない。自分がレプリカントだと知ってしまったレプリカントは、運命を悲観し人間に反逆する。自分って何?という分裂ぎみの重いテーマがこの映画のミソなのだ。

 

 

曲の中では映画のシーンを彷彿とさせる描写が多い。以下、映画のファンも興味深く思われることだろう。

 

霧のさなかをかき分けながら夜の高速
雨の煙あげながらハンドル握るレプリカント

→映画は酸性雨の降りしきる2019年という設定で、いつも雨が降っているような印象が残るくらい、ブレードランナー=雨のイメージだ。そんな暗い街の中を、ハリソン・フォードが空飛ぶ車で飛んでゆくのだ。ASKAはそれと自分を重ねているらしい。天気の悪い夜の高速道路を走りながら、物思いに耽る男の情景が浮かぶ。ハリソン・フォードも最初から最後まで沈鬱な表情をしている。

 

例えば僕は誰かの夢で 作られた人 幻人 時間の運命
僕が死んだら 誰かの夢が朝になった そう思えばいい
瞳に映るすべては 誰が織りなす迷宮

→自分は誰かに造られたレプリカントに過ぎないのかもしれない、という切ない述懐。映画を見た人なら誰もが抱く感想“オレってレプリカントなんじゃね?”の歌詞化だと思われる。

レプリカントは4年という寿命が定められていて、ストーリー上でも時間という運命が重要な泣かせどころとなる。時間切れを意識しながら、ハリソン・フォードは愛するレプリカントと逃避行に出る。

 

愛した人さえ心のReplicant

→ハリソン・フォードはレプリカントを愛してしまうのである。禁断の恋が映画を彩るのだが、そこはASKAもどん欲に取り込んでいる。ちょっぴりラブソングの要素も入れてみました、の趣向が渋い。映画の中でも恋愛の要素は薄いのである。

 

 

浮かべた景色は記憶のReplicant

→レプリカントには人工の記憶が埋め込まれている。記憶を頼りに人工知能は行動するのだ。これは今で言うディープラーニングそのもの。人も一緒で、知らず知らずのうちに記憶を頼りに行動している。例えばコーヒーにするか紅茶にするか、その決定は親のマネをしているだけで意思は介在しないという研究結果がある。

 

 

以上、映画に重ね合わせるかのように、歌詞が作られていることが分かる。

 

 

***

 

以下は、曲をより深く味わうための付章とする。

レプリカントの生殺与奪の権利は人間が持っていて、反乱分子を次々と殺していくのだが、映画が進むにつれ観客はこう思う。

人がレプリカントを殺す権利があるのか?

レプリカントは年数を経るにつれ感情を持つようになる。感情を持ったレプリカントはもはや人間に等しいように描かれ、それを殺す人間側のほうが醜く感じられるのだ。

レプリカントと人間を分けるのが、感情。逆に言えば感情さえあればロボットにも愛着が湧いてくる。

 

2017/11/06のASKAのブログ記事で関連することを言っている。AIという言葉は80年代で言うところのアンドロイド、レプリカントと読み替えてもいいだろう。やはり感情がキーワード。

 

最後の方で「人間は完璧なAIが生み出した作品」と書いているけど、完璧なAIとはつまり造物主=神のことを言っているのは明らかであろう。ASKAの中には
人間は造物主に造られた存在=レプリカント
という観念があるようにも思われる。ASKAにキリスト教の素養がうかがえることから逆算しても。

 

つまり
私たちは自分の意思で生きていると思いがちだけど、本当は神様か何かのオモチャじゃないの?
という視点がこの曲には潜んでいまいか。運命論と言ってもいいだろう。これはブレードランナーの原作者フィリップ・K・ディックやカート・ヴォネガッドら、SFの古典が提唱したテーマでもあると思う。

 

AIについては以前にも。上記記事と併せて読むと、『迷宮のReplicant』がより深く聴けるようになる、かもしれない。

 

 

 

 

なお、私がこの文章を綴るのは、続編『ブレードランナー2049』の公開を記念してのことと書き添えておこう。

 

ちなみにテレビの心霊特集で「霊の声が入っている」などとしてこの曲が取り上げられることがあるけど、100%間違い。2番で「もしも死んだら」って声が入る箇所、これは歌詞に合わせたセリフだ。ASKAの声だし笑

 

 

(2017/11/06)

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